トマシーナ

トマシーナ (創元推理文庫)

トマシーナ (創元推理文庫)

♂ネコだと思ってトーマスという名前をつけたら、じつは♀ネコだとわかって、トーマスを無理やり女性形にしてトマシーナになった、という最初のくだりからして、ひらめきいっぱいのものがたり。
かといって、けっして、かるい話ではなく、重苦しいテーマをあつかっています。それでも、このひとの作品は、なぜかいつも安心して読み進められる気がするんですよね。今回、トマシーナを読んでいて、そのわけが、ちょっとわかったような気がしました。ギャリコが、ヒトにしろ、ネコにしろ、人形にしろ、たましいのある存在すべてに抱いていた強い信頼感(「かみさまはどこにでもいる」)が、いまも文章をとおして伝わってきている!。
それにしても、このひとの、話の組み立てのうまさは、まさに「天性」と呼ぶべきもの。なかでも、この「トマシーナ」は、あとがきに、「本書は彼の数多くの傑作の中の傑作」とあるとおり、最後のどんでん返しまで、よく練られていて(ちょっと、練りすぎ感がないとは言えませんが...)、いちどしか映像化されていない(1967年公開の「トマシーナの三つの生命」)のが不思議なくらいです。
そんなわけで、しばらく、わたしの本棚のいちばんいい席をとりそうなこの本。ネコ好きでも、そうじゃなくても、ぜひ、いちど手に取ってみてください。